ガラスの城の記録

  • 2004.07.26 Monday
  • 03:08
手塚治虫の作品である。冷凍睡眠という科学技術によって25年間眠らされた人間が主人公である。主人公は冷凍睡眠によって、良心を破壊されており、さまざまな事件を巻き起こす、そういったストーリーである。

作品自体は、手塚らしく、極めて上手くまとまっている。この作品に関しては若干それが悪い方に出てしまい、上手くまとまりすぎてつまらないという点はある(面白くなる前に打ち切られてしまったようにも見える)。

問題は秋田文庫にこの作品の解説として共に収録されている尾崎秀樹氏の評論である。彼はその中でこの作品をこのように読み解く、

ストーリーは完結していないが、作者のねらいは明らかだ。機械の主人であったはずの人間が機械に犯され、脳細胞の異常をきたし、人間社会の秩序の破壊者となるといった内容を通して、厳しい警告を発しているのだ。汚染による自然環境の破壊が、私たちの日常生活をおびやかしている現在、「ガラスの城の記録」が提示している問題は重要な意味をもつ。

これは全く間違っている。まず尾崎は作者が「厳しい警告を発している」というが、何に対して警告を発しているのか作中の表現では極めて不明瞭である。尾崎はこの警告の対象として「汚染による自然環境の破壊」を提示するが、何故、冷凍睡眠による良心の破壊が環境破壊に対する警告となるのかは不明瞭である。

たしかに手塚はしばしば、作中で科学技術に対する懐疑を描くことがあり、それが主題となる作品もあるが(例としてアトムの最後を参照されたい)、この作品では上記のような理由によって、科学への懐疑が主題とはなり得ない。

この作品の主題は、前半部で主人公として描かれている冷凍睡眠で良心と愛情という感情を破壊された一郎と、後半部で台頭してくるもう一人の良心と愛の具象として描かれるキャラクター、本日の争いを通して、それらの重要性を問うことであり、また、そのように見ることの方がはるかに合理的で説明しやすい。

この作品に寄せられている尾崎の評論には他にも意味をなさない部分が散見され、全体としてのまとまりもない。劣悪な批評文である。

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  • 03:08
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