失われた時を求めて

  • 2004.08.10 Tuesday
  • 22:18
「パチン!」。足の膝から破裂音がした。そのとき僕は、いつものようにブレストで1kmばかり泳いだところだった。

なんで、こんな音がするんだ?いや、待てよ。そもそも今自分は泳いでいるんだ。音が聞こえた?そんな馬鹿な、泳いでいるのに音が聞こえるわけがない。現に今もこのプールには音楽がかかっているけど、そんなメロディは聞こえてこないじゃないか。いつものように体を伝わってきた音に決まってる。首を鳴らすと異常に大きい音がするのと同じだ。いや、違う。体を伝わってくる音ならよく知っている。その音ならこんな風にパチンとはきこえない。もっとその音が膝から鳴ったときはグギッと言った感じに聞こえるんだ。じゃあ何だ?この音は?うん、この音にそっくりな音を聞いたことがあるぞ。あれは確か、舞教注1時代の話だ。なんだっけ。そうだ、確かあれは誰かが足の靱帯を切ったときだ。じゃあ、このまま泳いでいていいのか?いや、いいわけがない!でも、ここでいきなり立ち上がって足を抱えるのか?いや、インストラクターが飛び込んで助けにくるな。それは恥ずかしい。。

そこで僕は、突如としてブレストからフリーに泳法を変えた。バタ足はほとんど使わずに取り合えず、上半身だけで泳ぐ。

やばいんじゃないのか?明日の予定はそうだUNION注2にジャッジにいくはずじゃないか。いけるのか?それ以上に今日はセミナーのレジュメの締め切りなのに。まあ、あれは後は図を入れれば完成だからなんとかなるだろう。しかし、セミナーの講師はできるのか?

すこしだけ、足を使ってみる。そんなに痛くない。

なんだ、たいしたこと無さそうじゃないか。そんなに痛くない。きっと靱帯が切れたって事はないんだろう。じゃあ、なんであんなにすごい音がしたんだ?そうか、きっとここ3~4日泳いでなかったからだな。まったくびっくりさせやがる。しかし、自分びびり過ぎだろ。まったくお笑いだ。

やっと、壁につく。とりあえず、水中で立ってみて、そんなに痛くないのを確認してから、プールから上がる。どうやらたいしたことはなかったようだ。

注1海上自衛隊舞鶴教育隊のこと。
注2高校生英語ディベートの団体のこと。
注3 そしてやっぱりタイトルにも関わらず、プルーストの「失われた時を求めて」ともあまり関係ないのです。ただ思考の流れを追ってみただけ。

恐怖

  • 2004.07.25 Sunday
  • 22:53
筒井康隆の作品。序盤までは推理小説のように進展していくけれども、終盤ではミステリー小説としての傾向は薄れ、主題は恐怖という感情が人間をいかに狂わせるかを描くところに移っていく。

作者はあからさまにその恐怖を読者にも体験させようとして、気味の悪い部分の情景に力を注いでいくのであるが、残念ながら僕にはその恐怖は伝わらなかった。作者の意図がわかりすぎるからである。むしろ、作中で、連続殺人におびえ、それゆえに狂っていく主人公の姿が(作者もそれを意図して描いているが、それ以上に)滑稽に映るほどである。

この作品には筒井らしくない、惰性が見られる。「こんな感じにしておけばいいだろう」といった、投げやりな態度が見られる。巻末の批評文で中条省平氏も指摘していることであるが、つまり、筒井も老いたと言うことである。

彼の以前の小説を多く読んでいる僕には若干残念な作品である。

風神の門

  • 2004.07.09 Friday
  • 23:31
司馬遼太郎の初期の作品。基本的には忍者ものであり、司馬の本領はまだ発揮されておらず、時代小説・大衆小説であるという感じがする。中・後期になると小説っぽさが抜けてきて、そのあたりが司馬の良いところである歴史の叙述という感じが出てくるのだが。

設定としても非常に荒い、主人公は霧隠才蔵で、相棒が猿飛佐助。次から次へ出て来ては才蔵によろめくヒロイン。実に適当。

けれども、伊賀忍者と甲賀忍者の忍術の違いについての言及には見るべき物があったかもしれないと思った。


白き異邦人

  • 2004.06.26 Saturday
  • 00:29
筒井康隆の短編。宇宙を放浪している地球人が故郷を追い求めてさすらうというもの。このような話は手塚治虫も火の鳥の望郷編で描いているが、同じSFであって、さらに同じような人間の帰巣本能に根ざす主題を持っていても、手塚治虫の作品に比べてこちらはとても感情移入がしにくい。

おそらく、手塚の作品の中ではその主人公が老いて死ぬ前になって、自分の故郷に帰りたくなるという、一人の人生においての話であるのに、筒井のこの作品ではその望郷の念を持つのが、実際には地球を見たことがない地球人の子孫であり、それが遺伝されるという設定になっているからであろう。

望郷心自体は、私にもあるものであり(自衛隊で最もきつかった時期には大変にあった。その当時の同期と無駄に「ふるさと」を大声で消灯後に合唱したのはいい思い出である)、納得できるが、先祖のいたところに果たして人間は行きたいと思うだろうか?私には同意できない。


お紺昇天

  • 2004.06.16 Wednesday
  • 03:06
筒井康隆の短編で、スクラップにされる運命にある自家用車の人工知能と、その持ち主の友情・愛情を描いた作品。僕の知っている限りでは、彼の徳間文庫から出ている自薦短編集4 「睡魔のいる夏」に収録されている。

これは設定が近未来ということになるのでSFということになるが、普通に書けば到底、筒井には書けないような、ありふれていて、べたべたする題材である、夫婦の(死による)別離というものを、SFというジャンルに置くことで、ややコミカルに、そしてロマンティックに描くことに成功している。ちなみに「お紺」とはその愛車につけれられた名前である。

物語の最後、いよいよスクラップになる前にお紺が「わたしって、とてもしあわせだったわ。」「何てしあわせだったんでしょう。」とつぶやき、男が「何て、すばらしい車だったんだろう。」というシーンはドタバタになりがちな、筒井としては異例にまとまっており、おそらくこの短編が、最初からこのラストシーンに収斂するために書かれたものであることをうかがわせる。おすすめの小品である。

ネアンデルタールの悩み

  • 2004.06.09 Wednesday
  • 19:54
ウィリアム・オールマンという科学系のジャーナリストの作品。ネアンデルタール人から我々現代人に至るまで、進化の過程で我々の思考にどのような変化があったのか、などについて他のチンパンジー等の霊長類を用いた実験、あるいは遺物からの検証などからわかった科学的事実について書いてある。

文章は学者の書いたものではなく、あくまでジャーナリストの書いたものであるので、我々特にその分野について学問的知識のない人間にも分かりやすく面白い。しかしながら、これは立花隆など、科学系のジャーナリスト全般に関してよく言われていることであるが、あまりに面白い文章を書こうとしすぎ、またその実験の結果などをセンセーショナルに伝えようとしすぎるために、その内容が正確さを欠くきらいがある(この本に関して言えば、あまりにも適者生存の法則を多くの心理的作用に対して適用しようとしすぎていると思われる 注1)。しかしながら、そもそも彼らの役割として、それらの新たにわかった知識を広く伝えると言うことがあるために、その点にある程度目をつむれば非常に面白い。入門書としては優れている。

ただ、この本に関しては非常に残念なことがある。これはまったく作者のせいではなく、編集者の技量の欠如なのだが、ページ数を埋めるためにか、あるいはより内容を平易な親しみやすいものに見せるためにか、随所に挿絵ではなく、漫画が入っている。この漫画がすばらしくつまらない。しかも、本文の内容を一見伝えているかに見えるが、本文を正しく読むとしばしば漫画の内容がその本文の内容を誤解してかかれていることがわかる。非常に良くない。また、装丁も非常によくない。平易に見せようとしすぎ、まるで子供向け絵本のようになっている。内容は平易ではあっても、小・中学生にはやや難しすぎるのだが。マイナーな出版社だけにこれが限界であったろうか。

注1 男女の恋愛観の相違、あるいは美人、美男の用件についての考察に関して

ロートレック荘事件

  • 2004.06.05 Saturday
  • 00:00
筒井康隆の推理小説の傑作。

筒井のらしさが非常にいい意味で出ている。ともすれば、過剰になり、美しさを欠くことも多い、前衛小説としての技法が推理小説という特殊な条件において文学的トリックとして活きている。まさに映像化不可能の傑作である。

19世紀前半にアラン・ポーが推理小説というジャンルを創始して、わずかに100年、大正年間には江戸川乱歩は「推理小説の全てのトリックは出尽くした」と嘆くに至った。この乱歩の嘆きは我々現代の推理小説の読者にはより深刻である。もちろん、推理の小道具はより増えた、プロファイリング、DNA鑑定、etc...  しかし、それらはより犯罪のトリックを制限し、作者に対してより大きな負荷を掛ける。

見よ!現代の推理小説を。それらはすでに、そういった科学犯罪捜査に対して、完全犯罪の成功をあきらめ、そういった、大仕掛けの犯罪捜査ができない場所、つまりは山荘や、孤島などでの犯罪に終始する姑息な犯罪者で溢れている。

それら姑息なトリックに対して、この小説でのトリックは新鮮で、読者を驚かせるのに十分である。もし読んでいない人がいたら、ぜひ、一度読んで頂きたい。

富豪刑事

  • 2004.05.05 Wednesday
  • 18:20
筒井康隆のあまりおすすめでない刑事物小説。正直つまらない。理由を挙げてみる。

・主人公が富豪の刑事と言うことになっているのだが、その富豪っぷりがあまりにもスノッブ。

・犯人を捕まえる過程にあまりにもこっていない。端的に言って手抜きである。したがって推理小説としてもいけてない。

・場面が変わる際に段落が切り替わるだけ、つまり節を変えずに続くという試みをしているが、この実験的な試みがただただ文章を読みにくくしている。要は失敗。また、その実験にどんな意味があったのかも不明。

・筒井康隆なのにもかかわらず、毒もない。

・ジョークもつまらない。

・文章技術も平凡

・ふと週刊ヤングジャンプという雑誌に連載されていた、「ブルジョワ刑事」という、これまたいけてない、しかもこの小説のあからさまな模倣漫画のことを思い出して気分を害する。

そんなわけでこれはあまりおすすめできない。

医学の10大発見

  • 2004.05.01 Saturday
  • 05:22
今日はあやめでジャッジをしなければならないというのに、こんな時間まで起きている。寝なければ。。

寝れなかった理由は他でもない、上記「医学の10大発見-その歴史の真実-」という近年まれに見る名著に出会ったからである。この本を読んで、久々に自分の浅学を恥じた、実に自分の持つ知識など所詮は高校程度の教科書から得た通り一遍の知識にすぎないのだと痛感した。

私がエドワード・ジェンナーについて知っていることなど、彼が牛痘を人間に種痘したことぐらいだった。彼がまた同時に鳥の渡りを初めて発見した鳥類学者であり、且つ、プレジオサウルスを発見した地質学者でもあったことなど知りもしなかった。

アレクサンダー・フレミングが抗生物質を発見したのは知っていても、それを実用段階に持って行った、オックスフォード大の研究チームのことは知らなかった。

またさらにこの著者であるマイヤー・フリードマン/ジェラド・フリードランド両博士らのグループが10大発見の中でも第一位と二位に挙げる、血液循環を発見したハーベイ、解剖学の祖、ベサリウスについては名前すら知らなかった。

それらの業績をその体に受けながら、存在すら知らないとはなんたる怠慢。誠に恥ずかしい。上記の記述の中に「あ、それ俺もしらねえ。」と思うものが二つ以上あるならば、是非このページを読まれているし諸貴もご一読のほどを。まずもって損はしないと思う。

この本に関してはその知名度の低さ、またその推薦度から考えソースを以下に提示する。
マイヤー・フリードマン. ジェラルド・W・フリーランド. 「医学の10大発見-その歴史の真実-」 株式会社ニュートンプレス 2000年

指輪物語

  • 2004.04.27 Tuesday
  • 16:12
ようやく読了。長かった。。
第一部がよく言われているようにひたすら饒舌に続く。ここを乗り切らないと、どうやら面白いところまではいけないらしい。第二部からは結構面白いがやはり長いものは長い。

第三部の後半の大団円の長さははんぱない。あまりこんなに大団円が長い小説を読んだことがない気がする。とりあえず、自分の読んだ小説のなかでは一番長いのではないかと思う。サムの忠心に涙する。

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